いつの時代もなくならない相続トラブル。特に、相続財産に土地やマンション・住宅等の不動産が含まれる場合、財産整理に手間取ることが少なくありません。そこで本記事では、『円満相続をかなえる本』(幻冬舎MC)より、具体的な事例と解決策を紹介します。
「5000万円」を超える相続税の支払いが発生
◆相続で取得した不動産を売却して損をしたAさん
Aさんは、千葉県にて代々農家を営む家系の長男として生まれました。一人っ子で、何不自由なく育てられ、父親に習って農業を引き継ぐ予定でした。しかし、平成に入り、農業で生計を立てるのが厳しくなるなか、お父さんが突然亡くなってしまったのです。
幸い、相続人は母親と長男であるAさんだけ。Aさんの妻は養子縁組しておらず、揉(も)める要素はありません。しかし、それなりの規模の不動産があるため、5000万円を超える相続税の支払いが必要でした。お父さんは、不動産は多く残してくれたものの、現金は農業による経営の厳しさもあり、1000万円しか残っていませんでした。
Aさんの手元資金を考慮しても、相続税の納税には3000万円足りません。困ったAさんは、古くからお付き合いのあった金融機関から紹介してもらった不動産会社に、不動産売却の相談をしました。
その不動産会社は、それなりに地元では名の知られている会社でした。金融機関からの紹介ということもあり、安心したAさん。不動産会社からの提案どおり、どんどん話を進めていきました。結果として、自宅の横の不動産を5000万円以上で売却することに成功。相続税の納税をしても余るほどの結果となり、一安心でした。
その後、数か月が経過して、Aさんのご友人を通して私をご紹介いただきました。もともとは相続税の還付請求に係るご相談だったのですが、相続税納税のために不動産を売却したと聞いて気になった私。よくよく聞いてみると、不動産会社に任せきっていて、相場もご自身でそれほど調べずに話を進めていたとのこと。自宅の隣地を売却したというのも気になり、調査させていただいたのですが、買主が不動産会社らしく、相場より低い金額で売却をされていたことがわかったのです。
そもそも対象不動産は500平米の土地なので、個人でも十分に購入可能です。にもかかわらず、不動産会社の買取となった。かつ自宅の隣地を売却してしまったというのが失敗だと感じました。
自宅の隣地ということは、自宅の一部としても活用可能です。今後、自宅に賃貸併用住宅を建築する、自宅を建て替えるなどの選択が出てきた際、隣地も一体活用できるとなると選択の幅は広がります。しかしAさんは、その選択を検討することもなく売却してしまいました。
このような選択ができることの検討をせず、リスクを説明しない不動産会社も悪いのですが、すでに時遅し。過去に戻ることはできず、隣地には密集して建てられた建売住宅が5棟も建つことになり、住んでいて圧迫感を感じることになりました。反対側に住む方からも景観が悪くなったと言われ、関係も少しギクシャクしてしまったとのことでした。
不動産を「一番高く売る」方法はないのか?
いかがでしたでしょうか? 信頼している会社に頼んでも、ご自身が知識がないばかりに失敗するケースもあるのです。
「このような失敗はしたくない、不動産を一番高く、それも良い条件で売る方法はないのだろうか?」読者の方は、ここが一番気になるところだと思います。
結論から申し上げると、会社の規模にかかわらず、複数の会社に声をかけて各社の対応を確認し、そのなかで良い出会いがあれば、結果として一番高く、より良い条件で売却できるでしょう。
気をつけていただきたいのは、1社だけにしか声がけをしないことです。医療でもセカンドオピニオンを行なう時代です。不動産という高額商品を扱うのに、1社だけの情報で、本当に大丈夫と言えるのでしょうか。これは大手とか地場とか金融機関系列の会社だから安心だとかは関係ありません。
次に、相場観を調べることは誰にでも可能です。ネットが発達したおかげで、インターネットにさえつながっていれば、かなりの情報を事前に調べることができます。すなわち、
●対象不動産の公示価格・基準地価・路線価等を確認する。
●近隣で売り出しされている物件価格を調査する。
この2点を行なうだけで、大方の売却価格が見えてきます。
ここに、調査に使える参考サイトを掲載しておきます[図表2]。なお、一般の方々が確認できない情報として挙げられるのが、「レインズ」(東日本不動産流通機構)と呼ばれる、宅建業社のみが取り扱える不動産情報媒体です。
レインズからはインターネットには掲載されていない売り出し中の物件はもちろん、成約済みの物件まで時系列に確認できるため、不動産業界ではなくてはならない情報媒体となっています。
不動産売買においては、売り出し価格よりも成約事例を用いて価格査定を行なうからです(売り出し中の物件は売主の個人的な思いが価格に反映されることもある一方、成約価格は相場で決まることが前提となるため)。
レインズの情報がわかれば早いのですが、残念ながら、まだネット上では一部しか確認ができないため、ここは不動産会社の力を借りねばならないところです。そして、この相場観さえつかんでおけば不動産会社からの情報提供に対してもある程度自信をもって対応いただけると思います。
佐藤 良久/森田 努/石川 宗徳/島根 猛/近藤 俊之/幾島 光子